日本語には時間を表す言葉が実はたくさんあるのですが、普段あまり使うことがないのでじっくり意味を考えたり、美しさを感じる機会を持ったりということが少ないのではないでしょうか。
この記事では、日本語において時間を表す言葉にはどのようなものがあるかを文学作品での使用例も含めて詳しく解説します。
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目次
- ■時間を表す言葉とその使用例
- 終日(ひねもす)
- 終日(ひねもす)の由来
- 「終日(ひねもす)」を使った文学作品
- つとめて
- 「つとめて」を使った文学作品
- 朝ぼらけ
- 「朝ぼらけ」を使った文学作品
- 夜もすがら
- 夜もすがら」を使った文学作品
- 十二支
- ■日本語の美しい表現を大切にする腕時計ブランド「和心」
- ■まとめ
■時間を表す言葉とその使用例
日本語における美しい時間を表す言葉と、その表現が実際に文学作品でどのように使用されているかを5つご紹介します。
終日(ひねもす)
終日(ひねもす)とは朝から晩まで続くさまを表す言葉です。
24時間全てを表すと解釈する人もいますがこれは誤りで、夜通しという意味の「夜もすがら」という言葉と組み合わせて初めて24時間全てを表すことができます。
終日(ひねもす)の由来
終日(ひねもす)の言葉の由来とはどのようなものなのでしょうか。
諸説ありますが、現在では次の2つの説が有力とされています。
①「ひへもすがら」を原型とする説
ひへを漢字で書くと「日経」となり昼間における時間の経過を指すことと、「~もすがら」が「~の間中」を表すことから「ひへもすがら」が終日(ひねもす)の言葉の由来であるという説があります。
「ひへもすがら」→「ひめもすがら」→「ひねもすがら」→「ひねもす」という音の変化と「がら」の省略が伴って終日(ひねもす)となったとされるのです。
②「ひねもすがら」を原型とする説
終日を表す「日」に、名詞の後について意味を付け加える「ね」という接尾辞、~の間中という意味の「もすがら」がついて「一日中」という意味の「ひねもすがら」が省略されて終日(ひねもす)となったという説もあります。
「終日(ひねもす)」を使った文学作品
「終日(ひねもす)」を使用した文学作品としては、江戸時代の俳人で画家でもあった与謝蕪村の次の俳句が有名でしょう。
「春の海 ひねもすのたり のたりかな」
うららかに晴れ渡った優しい日差しの中、春の海では終日ゆるやかな波がただ寄せては返しているという意味の俳句です。
与謝蕪村は画家らしく、故郷の丹後与謝の春の海におけるのんびりとした情景を切り取り、この俳句でそれを写実的に表現しました。
終日(ひねもす)という時間を表す言葉を混ぜ込むことで、春の海におけるおだやかな波の音がよりいきいきと伝わってくると言えるでしょう。
つとめて
つとめてとは、漢字で「夙めて」と書き、夜が明けた早朝のことです。
「夙に」という言葉からきており、これは「ずっと以前から、早くから」「若い頃から」「朝早くに」といった意味を指します。
近い時間を表す言葉には明け方を指す「曙(あけぼの)」や夜半過ぎから夜明け近くのまだ暗い頃を指す「暁(あかつき)」などの表現があります。
「つとめて」を使った文学作品
「つとめて」を使った文学作品としては、中宮定子の女房だった清少納言が書いた枕草子の第一段の冒頭部分が有名でしょう。
「冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。 昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。」
冬は早朝がよい、雪が振ったのは言うまでもない、という描写から始まる文は、平安時代の貴族の生活における風情ある冬の様子を美しく描き出しています。
朝ぼらけ
朝ぼらけとは空がほのぼのと明るくなるころのことです。
近い意味を持つ時間を指す言葉に明け方を指す「曙(あけぼの)」がありますが、朝ぼらけの方が曙(あけぼの)よりも少し明るくなった時を意味するのではないかと言われています。
「朝ぼらけ」を使った文学作品
「朝ぼらけ」を使った文学作品としては、百人一首における次の2つの和歌が有名でしょう。
(31番 坂上是則)朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪
(64番 権中納言定頼)朝ぼらけ 宇治の川霧たえだえに あらわれはたる 瀬々の網代木
百人一首の経験のある人には、この2つの札は5文字目までが「朝ぼらけ」という同じ言葉のため、6文字目で札を取ることのできる6字決まりであることの方がなじみが深いかもしれません。
坂上是則の歌では、空が明るくなってきたころに有明の月かと思うほど明るく、吉野の里に白々と雪が降ってきたことが綴られています。
また権中納言定頼の歌では、空が明るくなってきたころに宇治川に立ち込めた霧の切れ間から表れてきたのが、川瀬に仕掛けられた網代木である様子が歌われています。
どちらも明け方の時間を指す言葉である「朝ぼらけ」から周囲の趣ある景色を切り取り、一瞬の美しさを際立たせていると言えるでしょう。
夜もすがら
夜もすがらとは漢字で「終夜」と書き、一晩中や夜通しといった意味を表します。
「すがら」は「初めから終わりまでずっと」「何かをする途中、ついで」「ただそれだけで、そのまま」といった意味を持つため、夜と組み合わせると一晩中という意味となるのです。
「夜もすがら」を使った文学作品
「夜もすがら」を用いた文学作品としては、百人一首における次の和歌が有名です。
(85番 俊恵法師)夜もすがら もの思ふ頃は 明けやらで ねやのひまさへ つれなかりけり
好きな人を想って一晩中もの思いに沈むこのごろでは夜がなかなか明けないので、いつまでも光の射さない寝室の隙間さえもつれなく冷たいものと感じられるという気持ちを、素直に表現しています。
悩みごとがあって夜に目が覚めると、朝までの時間がとてつもなく長く感じるのは現代でもよくあることかもしれませんが、そのような人間らしい感情を時間を指す言葉である「夜もすがら」を用いてうまく表現していると言えるでしょう。
十二支
江戸時代の日本では日の出、日の入りを時刻の基準とし、日の出から日の入りまで「昼」、「日の入りから日の出までを「夜」として、それぞれを6等分することで時刻を定めた不定時法を用いていました。
時間を指す言葉も現在とは異なり、十二支の子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥を使用していたのです。
十二支の時刻を現在の時刻と比較し、表にまとめてみました。
干支 |
現在の時刻 |
子の刻 |
23時~1時 |
丑の刻 |
1時~3時 |
寅の刻 |
3時~5時 |
卯の刻 |
5時~7時 |
辰の刻 |
7時~9時 |
巳の刻 |
9時~11時 |
午の刻 |
11時~13時 |
未の刻 |
13時~15時 |
申の刻 |
15時~17時 |
酉の刻 |
17時~19時 |
戌の刻 |
19時~21時 |
亥の刻 |
21時~23時 |
江戸時代に使用されていた和時計では十二支での時刻表示が行われ、人々に時を知らせていたのです。
■日本語の美しい表現を大切にする腕時計ブランド「和心」
和心は、1964年創業の腕時計メーカー、株式会社和工がお届けする和にこだわった腕時計ブランドです。
十二支の子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥を使用した文字盤、大字(だいじ)の壱・弐・参・肆・伍・陸・漆・捌・玖・拾を使った文字盤など、日本ならではの時間を指す言葉を積極的にデザインに取り入れています。
また和心では日本古来の時刻表現を行うだけではなく、ケースからバンドに至るまで国産の材料を使用し、日本の文化を表現するのにふさわしい腕時計を作り上げているのです。
美しい日本語の時間を指す言葉を腕時計で取り入れたいなら、ぜひ一度和心にお声がけください。
和心 WACOCORO (wacocoro-watch.com)
■まとめ
日本古来の時間を指す言葉は似た時間帯を示す言葉が複数あったり、有名な文学作品に積極的に取り入れられていたりと趣の深い言葉であることがわかりました。
日本人特有の時間に対する感じ方を理解するためにも、ぜひ時間を指す言葉に注目してみてください。