博多駅周辺を歩くと至る所で博多織の献上柄をモチーフにしたタイルアートやシンボルマークが見られるけれど、着物の帯に使われる織物であるということ以外はあまり詳しく知らないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では博多織の特徴や魅力について詳しくご紹介します。
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目次
- ■博多織とは
- ■博多織の歴史
- ■博多織ができるまでの工程
- ■和心
- ■まとめ
■博多織とは
2018年に伝来777周年を迎えた博多織は、福岡県福岡市博多地区周辺で主に作られており、1976年に国の伝統的工芸品に指定されています。
多くの細い経糸(たていと)を使用し、太い緯糸(よこいと)を筬(おさ=織機の部品の1つで緯糸を押して位置を整える働きをする)で強く打ち込むことで、経糸で柄を浮かせるように綿密に織られるのが特徴的だと言えるでしょう。
糸の素材としては生糸、絹糸、金糸、銀糸、うるし糸などが用いられ、金箔、銀箔、うるし箔などの箔も用いられています。
博多織における7つの伝統的な製法を表にまとめてみました。
製法名 |
概要 |
献上・変り献上(けんじょう・かわりけんじょう) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いる ・地組織(生地の折り方の組織)は平織の変化織、綾織、朱子織 |
平博多(ひらはかた) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いる ・地組織はたてうね織 ・緯糸の打ち込み方式は手投杼(てなげひ)、引杼(ひきび)、追杼(おいび) |
間道(かんどう) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いる ・地組織は平織の変化織、綾織、朱子織 |
総浮(そううけ) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いた重ね織 |
捩り織(もじりおり) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いた搦み(からみ)織 |
重ね織(かさねおり) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いた縦・横二重織以上の紋織物 |
絵緯博多(えぬきはかた) |
・先染めまたは先練りした絹糸を用いる ・地組織は平織の変化織、綾織、朱子織 |
また博多織製品には必ず、品質の証として博多織工業組合が発行した5種類の証紙のいずれかが貼り付けられています。
近年ではほとんどの製品が機械織で作られていますが、その魅力は色あせないものだと言えるでしょう。
■博多織の歴史
博多織は博多の商人だった満田弥三右衛門が1241年に宋より持ち帰った唐織(広東織)の技術を基に、16世紀に子孫満田彦三郎が改良を重ねて織物の技法として完成させました。
また1600年に福岡藩の初代藩主黒田長政によって、博多織の反物と帯が幕府への献上品に選ばれ、博多織を代表する献上柄が生まれます。
献上柄には4つの種類があるため、表にまとめてみました。
献上柄の種類 |
概要 |
親子縞 |
・太い縞が細い縞を挟む配置で「親が子を守る」という意味がある |
独鈷 |
・真言密教では煩悩を打ち砕き菩薩心を表す仏具・法器 |
孝行縞 |
・細い縞が太い縞を挟む配置で「子が親を慕う」という意味がある |
華皿 |
・仏を供養する際散華としてまき散らす花を入れる皿 |
献上柄には魔除けや厄除け、家内繁盛の願いが込められています。
また献上博多織には青・赤・紺・黄・紫の五色が揃っているため五色献上と呼ばれますが、森羅万象と宇宙のあらゆる現象の基となるものが「木・火・土・金・水」の5つとする五行説と色を結び付けて表現したもので、それぞれの色が儒教の五常(5つの道徳)に対応しているのです。
博多織の五色と五常の内容を表にまとめてみました。
色の種類 |
五常 |
概要 |
紫根染の紫 |
徳 |
・落ち着き、品格、神秘性を表し古くから高貴な色とされる |
刈安染の青 |
仁 |
・五行説では東の方角を示し季節の始めの春、穏やかさ、静けさ、平和を表す色とされる |
茜染の赤 |
礼 |
・色の名前は天に昇る太陽に由来し偽りなき誠の心、幸福、富を表す色とされる |
藍染の紺 |
智 |
・力強さ、信用を表す色とされる |
鬱金染、揚梅皮染の黄 |
信 |
・五行説では方角の中心を示し揺るぎない皇帝の威力を表す色とされる |
博多織の高い品質を維持するため、福岡藩では江戸時代を通じて織屋株制度を用いて織元を12戸に限定していましたが、明治時代に一度自由化されました。
その後1880年に現在の博多織工業組合の原型となる博多織会社が設立され、現在に至るまでその品質は維持され続けています。
■博多織ができるまでの工程
このように高品質な博多織ができるまでの工程はどのようなものなのでしょうか。
抜粋してご紹介します。
1.図案
博多織のデザインを決める作業で、日本の四季や風習を表現し長く継承されてきた定番の文様や、新たに描き起こされた図案などを組み合わせて、イメージを固めていきます。
2.意匠・デザイン
図案を基に方眼紙に経糸と緯糸の交差具合(幅、糸数など)を示す織組織図を制作します。
幅1mmにも満たない糸一本に至るまで微調整するため、極めて緻密な設計作業だと言えるでしょう。
3.精練(せいれん)
蚕の繭から紡いだ生糸の油分や汚れを取り除き、やわらかい絹糸に仕立てる作業です。
石けんや炭酸ソーダを使って数時間ていねいに洗うと、糸にふっくらとした光沢が出ます。
4.染色
精練した糸を染める作業です。
一定量の糸を輪のように束ねた綛(かせ)という状態で作業を進めますが、色見本どおりの色を出すには熟練の経験が必要とされます。
5.糸繰り
染めた糸を作業しやすいように再度、枠木に巻きなおす作業です。
糸の張力を一定に保って巻き直すことが美しい博多織を作るコツだと言えるでしょう。
6.整経
織組織図の通りに経糸を並べ、ロール状に巻き付けていく作業です。
特に博多織は経糸で色と柄を出すため、1本単位で計算を重ねながら巻きあげる間違いの許されない工程だと言えるでしょう。
7.経継ぎ
大きなロール状に巻き上げた経糸を手織機の経糸に1本1本結びつけていく作業で、数千本もの糸を手作業で結びきってようやく経糸の準備ができます。
8.緯合わせ
細い緯糸を数本の束にまとめて、太い糸に仕立てる作業です。
この太い束の緯糸こそが、しなやかで丈夫な博多織独特の風合いを生み出しています。
9.管巻き
まとめた緯糸を、杼(ひ)にセットするための管に巻いていく作業です。
製織時のほどけやすさを意識しながらもしっかりと巻く微妙な力加減が重要視されます。
10.製織
手織機にセットされた経糸に、杼の緯糸をくぐらせ打ち込んでいく織作業です。
糸が切れていないか、柄がきちんと出ているかなどを確認しながらの作業となるため集中力が必要だと言えます。
11.完成
完成した織物は厳密な検品作業を経て出荷されます。
工程が多いため、博多織の完成までには通常でも数か月から半年程度の時間が必要です。
■和心
1964年創業の腕時計メーカー、株式会社和工がお届けする日本製にこだわった腕時計ブランドの和心では、博多織のバンドを使用した腕時計もラインナップしています。
バンドには1896年創業の博多織メーカー、森博多織株式会社製の博多織を使用し、風合いや使い心地など多くのチェック項目を満たすまで何度も試作を繰り返して商品化しているのです。
バンドに描かれた独鈷模様と華皿模様には厄除け、家内安全の願いが込められており、身に着けることでどっしりとした高級感やお守りのような安心感が生まれるでしょう。
博多織を使用した和心の腕時計ラインナップは「極シリーズ」と名付けられており、「富士」「縁」「絆」の3種類から選ぶことができます。
伝統的な博多織を、腕時計からさりげなく取り入れてみませんか。
和心 WACOCORO (wacocoro-watch.com)
■まとめ
博多織は、福岡県福岡市博多地区周辺で主に作られており、1976年に国の伝統的工芸品に指定されている緻密で伝統的な製法を大切にする織物だとわかりました。
ぜひコーディネートにも取り入れて、博多織を身近に感じてみてください。